学会賞

園芸学会年間優秀論文賞 Hort. J. 91(2): 221–228.

Hort. J. 91(2): 221–228.

Physiological Investigation of Quantitative Traits for Fruit Mass Assessment

Using a Tomato Introgression Line

Haruna Yada1, Chihiro Matsumoto1, Xiaonan Xie1,3, Kazuhisa Kato4, Hiroki Ikeda1,2

1Graduate School of Regional Development and Creativity, Utsunomiya University, Utsunomiya 321-8505, Japan

2School of Agriculture, Utsunomiya University, Utsunomiya 321-8505, Japan

3Center for Bioscience Research and Education, Utsunomiya University, Utsunomiya 321-8505, Japan

4Graduate School of Agricultural Science, Tohoku University, Sendai 980-0845 Japan

<研究内容>
 果実の大きさは,トマト(Solanum lycopersicum)の収量を決定する要因の1つであることから,果実サイズの向上は園芸生産における重要な目標といえる.果実サイズなど果実に関する形質の多くは量的で,多数の量的形質遺伝子座(QTL)に支配されている.QTL解析の材料として,トマトでは栽培種‘M82’(Solanum lycopersicum)に近縁野生種(Solanum pennellii)の染色体断片を導入した染色体断片置換系統(IL)が整備されており,先行研究では果実サイズが増大する系統がいくつか示されている.本研究では‘M82’の第12染色体の一部がS. pennelliiの染色体に置換されたIL12-1-1について,成熟期の果実サイズが‘M82’と比較して大きいこと,および果実サイズの差が果皮の厚さに起因することを明らかにした.一般的に果実の発達は3段階に分けられ,最終的な果実サイズは細胞分裂期と細胞肥大期に決定するとされている.IL12-1-1の果実サイズが増大する生理学的なメカニズムを明らかにするため,果皮の細胞数を発達ステージ別に調べたところ,開花後20日におけるIL12-1-1の細胞数は‘M82’よりも有意に多く,この差は細胞分裂期に生じたと考えられた.そこで細胞分裂に関係する植物ホルモンのオーキシンとサイトカイニンの濃度を,開花後10日と20日の果実で測定した.その結果,開花後20日のIL12-1-1におけるオーキシンとサイトカイニンの濃度は‘M82’よりも高い傾向が見られ,植物ホルモン濃度の違いが‘M82’と IL12-1-1の果皮における細胞数に影響している可能性が示唆された.またIL12-1-1においてS. pennelliiの染色体が置換されている領域に座乗している遺伝子から,細胞分裂やオーキシンの恒常性に関わるとされる遺伝子に注目して発現解析を行ったところ,細胞分裂期に‘M82’とIL12-1-1で遺伝子発現に違いが見られた.

<授賞理由>
 著者らは,トマト栽培種‘M82(Solanum lycopersicum)に近縁野生種(Solanum pennelliiの染色体断片を導入した染色体断片置換系統を用いた解析を行い,‘M82’の第12染色体の一部がS. pennelliiの染色体に置換された系統IL12-1-1では成熟期の果実サイズが‘M82’よりも大きくなること,果実サイズの差が果皮の厚さに起因することを明らかにした.さらに果皮が厚いIL12-1-1では果皮の細胞数が多く,開花20日後のオーキシン,サイトカイニン濃度が高い傾向にあること,細胞分裂やオーキシンの恒常性にか関わるとされる遺伝子の発現量が高いことを示した.本研究により,トマトの果実サイズに関わる遺伝子の同定,あるいはMAS選抜が可能となると考えられることから,学術的にも実用的にも優れた論文である.

 

 

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