Hort. J. 91(2): 229–239.
Flavonoid 3’5’-Hydroxylase (F3’5’H) Gene Polymorphisms Co-segregate with Variation in Anthocyanin Composition in the Flower Petals of Lisianthus [Eustoma grandiflorum (Raf.) Shinn.] Yuka Takatori1,2, Keiichi Shimizu1,3, Daraluck Yauwapaksopon3, Yu Nakamura3, Hiroshi Oshima3, Fumio Hashimoto1,3 1United Graduate School of Agricultural Sciences Kagoshima University, Kagoshima 890-0065, Japan 2 Saga Prefectural Agricultural Technological Support Center, Saga 840-2205, Japan 3Faculty of Agriculture, Kagoshima University, Kagoshima 890-0065, Japan |
<研究内容>
トルコギキョウ[Eustoma grandiflorum (Raf.) Shinn.]は,アメリカ合衆国南部原産のリンドウ科の草本である.本種は戦後の日本で育種が進み,高い草丈,豊富な花色と花型,花持ちの良さ等が評価され我が国の主要な花卉の1つになっている.トルコギキョウの野生種は,デルフィニジン系アントシアニンを主要色素とする紫色の花を咲かせるが,現在では赤,白,ピンク,薄緑,薄黄,茶,藤色等の様々な花色を持った品種が作出されている.もし,これらの変異の原因となっているDNA配列がわかれば,DNA鑑定によって開花前にそれらの形質を知ることができるようになり,効率的に品種改良を行うことが可能になる.しかしながら,トルコギキョウでは花色の変異とゲノム上のDNAの変異を関連付ける研究はほとんど進んでいないのが現状であった.
本論文では,このような花色変異の原因となるDNA配列を明らかにすることを目的に,デルフィニジン系アントシアニン生合成の鍵酵素である3′, 5′-水酸化酵素遺伝子(F3′5′H)の調査を行った.トルコギキョウの色素組成の異なる3系統,すなわち,デルフィニジンが花弁の主要色素となる紫色花系統,シアニジンが主要色素となる藤色花系統及びペラルゴニジンが主要色素となるピンク色花系統において,F3'5'H遺伝子をゲノムPCRによって増幅し電気泳動した.その結果,3系統とも異なるバンドパターンが検出された.さらに,遺伝学的解析からそれらのバンドパターンは同じ遺伝子座の変異による多型であること,さらに,この多型が花色の変異と連鎖していることが明らかになった.また,塩基配列を調べたところ,ペラルゴニジンが主要色素となる系統の多型は,レトロトランスポゾンが挿入によるものであり,この挿入によって,F3′5′H遺伝子に変異が起こり,ペラルゴニジン主要型の表現型になったと考えられる.以上の結果,本研究によって見出されたトルコギキョウのF3′5′H遺伝子の多型は,花弁の主要色素を開花前に予測するためのDNAマーカーとして利用可能であり,効率的な花色の育種につながることが期待される.
<授賞理由>
本研究で明らかになったF3′5′H遺伝子の3つの多型はそれぞれ,デルフィニジンを主要色素とする紫色花,シアニジンを主要色素とする藤色の花,ペラルゴニジンを主要色素とするピンク色の花の形質と連鎖しており,PCRにより開花前にこれらの形質を予測することが可能となった.これらは,トルコギキョウの花色の育種におけるDNAマーカーとして利用可能であり,効率的な育種への応用が期待できる.また,ペラルゴニジンを主要色素とする系統では,F3′5′H遺伝子へのレトロトランスポゾンの挿入が見出された.このようなトランスポゾンの挿入と有用変異の関係の遺伝学的な証明は,トルコギキョウでは初めての報告である.そのため,本研究は学問的にも実用的にも優れた研究であると評価される.
鹿児島大学農学部におけるトルコギキョウの収穫風景.本研究によりトルコギキョウの多様な花色の原因の一端か解明された.