Hort. J. 90(1): 48–57.
Parthenocarpy Induced Fluctuations in Pungency and Expression of Capsaicinoid Biosynthesis Genes in a Japanese Pungency-variable Sweet Chili Pepper ‘Shishito’ (Capsicum annuum) Fumiya Kondo1, Kanami Hatakeyama1,2, Ayana Sakai2,3, Mineo Minami4, Kazuhiro Nemoto5, Kenichi Matsushima5 1Department of Agriculture, Graduate School of Science and Technology, Shinshu University, Minamiminowa, Nagano 399-4598, Japan 2Yawataya Isogoro Inc., Nagano 380-0805 Japan 3Graduate School of Agriculture, Shinshu University, Minamiminowa, Nagano 399-4598, Japan 4Faculty of Agriculture, Shinshu University, Minamiminowa, Nagano 399-4598, Japan 5Institute of Agriculture, Academic Assembly Faculty, Shinshu University, Minamiminowa, Nagano 399-4598, Japan |
<研究内容>
日本在来のトウガラシである‘ししとう’(Capsicum annuum)は蔬菜として広く栽培・利用されているが,栽培時にみられる辛味果の発生が流通上の問題となっている.これは,辛味成分であるカプサイシノイドの果実内含量が環境依存的に変異するためであると考えられるが,その機序についてはほとんど明らかにされていなかった.他方で,「種子の少ない‘ししとう’果実では辛味果の発生頻度が高い」ことが知られており,果実内種子数と辛味変動には何らかの関連があると考えられた.そこで本研究では,‘ししとう’果実の単為結果処理を行い,果実の無種子化によるカプサイシノイド含量の変化,およびカプサイシノイド生合成関連遺伝子の発現量変異をそれぞれ調査した.本研究ではまず,‘ししとう’の受精前花蕾の子房部に2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)を施用し,無種子の「2,4-D処理単為結果果実」を作出した.一方,コントロールとして放任受粉によって得られる「受精果実(有種子)」と,受精済み花の子房部に2,4-Dを施用することで得られる「2,4-D処理受精果実(有種子)」をそれぞれ用意した.その後,開花後20日, 35日および50日に各処理果実を収穫し,胎座・隔壁におけるカプサイシノイド含量を高速液体クロマトグラフィーによって測定するとともに,カプサイシノイド生合成関連16遺伝子の発現量を定量RT-PCRによって調査した.上記解析の結果,全ての成熟段階別果実において, 単為結果果実のカプサイシノイド含量は他2果実よりも高い傾向にあった.また,カプサイシノイド合成に関与する8遺伝子(Pun1, pAMT, KAS, CaMYB31, BCAT, CaKR1, ACL および FAT)については,単為結果処理によって発現量が著しく上昇することが明らかになった.以上の結果から,果実の単為結果は‘ししとう’の辛味変動要因の一つであるとともに,複数のカプサイシノイド生合成関連遺伝子の発現上昇が当該辛味変動に寄与していると考えられた.これらはトウガラシ辛味変動機序の一端を担う新たな知見であり,辛味の安定化に向けた‘ししとう’の園芸生産を考えるうえで,有益な情報になりうると考えられた.
<授賞理由>
甘味トウガラシ‘ししとう’は栽培環境によって果実の辛味程度が変動する辛味変動性品種であり,種子の少ない果実において辛味果の発生頻度が高いことも知られている.本論文では,無種子の単為結果果実と受精果実との間で辛味成分カプサイシノイド含量とカプサイシノイド生合成関16遺伝子の発現量を比較し,単為結果果実では受精果実に比べてカプサイシノイド含量が高く,カプサイシノイド合成に関与する8遺伝子の発現量も高いことを明らかにした.このように本論文は辛味変動性トウガラシにおける高品質果実生産に大いに寄与するとともに,辛味果発生に関する環境応答メカニズムの解明にも繋がる学術的にも優れた論文である.