Hort. J. 89(5): 602–608. Delay of Flowering at High Temperature in Chrysanthemum: Duration of Darkness and Transitionsin Lighting Determine Daily Peak Heat Sensitivity
Yoshihiro Nakano1, Tomoyuki Takase1, Katsuhiko Sumitomo1, Shihori Suzuki2, Kana Tsuda-Kawamura3, Tamotsu Hisamatsu1
1NARO Institute of Vegetable and Floriculture Science, Tsukuba 305-0852, Japan 2Fukushima Agricultural Technology Center, Koriyama 963-0531, Japan 3Miyagi Prefectural Agriculture and Horticulture Research Center, Natori 981-1243, Japan |
<研究内容>
高温による開花遅延はキクの周年安定生産を阻害する要因の一つであり,その理解を深める必要がある.筆者らは前報でキクの高温感受性が一日の時間帯によって異なることを明らかにしている.本研究では,多様な栽培環境・品種で栽培が行われているキク生産現場において高温感受性の時間変動を把握することを目的とし,変動を生じさせている要因を明らかにすることを試みた.異なる日長条件・異なる時間帯の短時間高温処理を組み合わせて開花への影響を評価することで,明暗開始の認識および開始後経過時間と,高温感受性との関係を明らかにした.高温感受性は日長条件が異なっても暗期開始から共通した経過時間で最大となったことから,暗期開始を認識することでリセットされる体内時計機構の制御下にあることが示された.高温感受性は暗期開始から約16時間で最大となり,その後も暗条件が続くと漸減した.一方,暗期中に高まった高温感受性は暗期の経過時間に関わらず,明期に遭遇することで急激に低下した.以上より,高温感受性の時間変動には暗期認識と時間計測によるピーク形成と明期認識によるその打消しの機構が関与していることが明らかになった.このことからキクの高温感受性は日長条件に関わらず暗期終了付近の時間帯で最大となることが導かれた.
<授賞理由>
著者らは,キクの開花遅延の要因の1 つとなる高温遭遇に対して,感受性が最も高まる時間帯を世界で初めて明らかにした.様々な明暗条件下での栽培と高温の曝露条件の検討により明確な結果を得ている.24時間周期でキクの高温感受性が最大になるのは,日長条件にかかわらず夜明け前であることが明確に示されたことは,学術的意義が大きい.また,本研究成果は,キクの高温による生理障害を回避する栽培技術の開発につながることが期待される.これらの理由から本論文は優秀論文賞に値する.