Hort. J. 89(3): 261–267. Effect of Parthenocarpic Genes pat-2 and pat-k on Vegetative and Fruit Traits in Tomato (Solanum lycopersicum ‘Micro-Tom’) Rihito Takisawa, Eri Maai, Ryohei Nakano,Tetsuya Nakazaki Graduate School of Agriculture, Kyoto University, Kizugawa 619-0218, Japan
|
<研究内容>
単為結果性は受粉・受精なしに果実が着果・肥大する性質であり,トマトにおいて着果のためのコストや労力を軽 減する魅力的な性質であると考えられている.日本では単為結果性遺伝子pat-2やpat-kを用いて単為結果性トマト品種の育成が行われているが,育種上重要であるにもかかわらず,pat-2,pat-kとそれらの組み合わせがトマトの栄養成長器官や果実特性に及ぼす影響はほとんど明らかとなっていない.そこで本研究では,1つの遺伝的背景でこれらの遺伝子の効果を比較調査するため,まず初めにトマトのモデル品種である‘Micro-Tom’へpat-2とpat-kを導入した.作成した‘Micro-Tom’系統を用いて栄養成長器官および果実特性を調査したところ,pat-2を有する系統では野生型に比べ,茎葉の重量と気孔コンダクタンスが有意に大きくなったのに対し,pat-kと野生型の間に有意な差は認められなかった.また,果実の可溶性固形物含量は野生型に比べpat-2を有する系統で有意に小さくなったのに対し,pat-kで有意に高くなった.これらの結果はpat-2やpat-kに連鎖した遺伝子の効果である可能性もあるが,pat-2やpat-kが単為結果の誘導だけでなく,栄養生長器官や果実品質に影響を及ぼすことを示唆している.また,pat-2とpat-kの両方を有する系統では,pat-kを持つ系統に比べて未受粉果実の着果率と果実重が有意に高くなり,pat-2を持つ系統と比べても未受粉果実の果実重が有意に高くなった.これはpat-2とpat-kの単為結果誘導効果が相加的であることを示している.本研究により,pat-2あるいはpat-2とpat-kの組み合わせが,栄養成長器官および果実特性に及ぼす影響が明らかとなった.本研究で得られた結果は,今後,これらの遺伝子を用いた単為結果性トマト品種を育種する上で,有用な知見になると思われる.
<授賞理由>
トマト生産において,受粉・受精することなく果実の着果・肥大が可能である単為結果性は非常に有用な性質であり,単為結果性品種育成に対する期待も大きい.本論文では,単為結果性品種の育種上重要であるpat-2 およびpat-k に関して,これまで明らかでなかった栄養成長器官および果実特性への影響を報告した点で学術的に優れている.また,本論文で報告された知見は,今後の単為結果性品種の育種において大いに役立つものであることからHort J年間論文賞に値する.