学会賞

園芸学会年間優秀論文賞 Hort. J. 88(2): 214–221.

Hort. J. 88(2): 214–221.
Effect of Maturation Stage and Storage Temperature and Duration on β-
Cryptoxanthin Content in Satsuma Mandarin (Citrus unshiu Marc.) Fruit
 
Hikaru Matsumoto1, Yoshihiko Adachi2, Yoshinori Ikoma3, Masaya Kato4
 
1Institute of Fruit Tree and Tea Science, NARO, Shizuoka 3424-0292, Japan
               2Institute of Fruit Tree and Tea Science NARO, Tukuba 305-8605, Japan
               3Headquaters, NARO, Tsukuba 305-8517, Japan
               4Faculty of Agriculture, Shizuoka University, Shizuoka 422-8529, Japan

<研究内容>
 ウンシュウミカン果実において,β-クリプトキサンチンは果肉中の主要なカロテノイドで重要な品質要素である.市場に出荷されているウンシュウミカンの成熟度や貯蔵条件は多様である.しかし成熟期や貯蔵温度と期間がβ-クリプトキサンチン含量に及ぼす影響は十分に明らかにされていない.本研究では,異なる成熟期に果実を収穫して5~20°Cで貯蔵し,β-クリプトキサンチン含量の変化を調査した.室温程度の20°Cでは,樹上でβ-クリプトキサンチン含量が増える時期に収穫した果実において15日貯蔵後に含量が増えたのに対して,樹上で増えない時期の果実では貯蔵後に含量は変化しなかった.冬季の常温貯蔵庫を想定した10°Cでは,樹上で含量が増える時期に収穫した果実において14日後に含量が増加した.これに対して,樹上で含量が増えない時期の果実においては,14日後では含量は変化しなかったが30日後に増加した.低温貯蔵を想定した8°Cでは80日貯蔵後に含量が増加した.一方5°Cでは成熟期にかかわらず,全ての実験期間中,含量はほとんど変化しなかった.カロテノイドの含量変化と遺伝子発現解析の結果から,20°Cでは,樹上の成熟過程で見られるカロテノイド集積が収穫後も継続するが,5°Cでは継続しないことが示唆された.本研究結果から,果実の成熟期にかかわらず,5~20°Cではβ-クリプトキサンチン含量は減少しないことが示唆された.さらに,8°C以上の温度では,β-クリプトキサンチン含量は増加する場合があり,その速度は樹上でカロテノイドを集積している果実では,そうでない果実に比べて早いことが示唆された.

<授賞理由>
 本論文は,ウンシュウミカンの機能性成分として重要なβ-クリプトキサンチンの収穫後変化に及ぼす収穫時期(成熟段階)と貯蔵温度の影響を調べたものである.2015年に機能性表示食品制度が開始され,ウンシュウミカンにも一部の産地で表示が認められているが,機能性成分の含量は同じ年次の同じ種類の果実であっても収穫時の果実熟度や収穫後の貯蔵温度によって変動することを科学的に示した非常に意義深い報告である.また本論文はβ-クリプトキサンチンと代謝経路上関連のあるカロテノイド類の収穫後の含量変化のみならず,それらの生合成や分解に関わる遺伝子発現のレベルから生合成経路の動きを調査し,樹上における生合成反応と収穫後における異なる貯蔵温度下での生合成反応を比較している.このようにして,収穫後のウンシュウミカンのβ-クリプトキサンチン含量は8℃以上では徐々に増加し,またその速度は樹上で色素合成が活発である段階では速いことを見出している.以上のように仮説に基づく予測を細かな実験設定と遺伝子発現レベルからの裏付けによって検証している質の高い論文である.

        


     

 

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