カンキツ育種の目的は、栽培しやすく品質優良な早熟から晩熟に至るバリエーションを創出し、カンキツ産業の振興を図ることです。特に、ウンシュウミカンの持つ日本の気象条件での栽培のしやすさや食べやすさを基本とし、風味や成熟期の異なる品種を育成することが、育種開始当初からの重要な目標でした。その中でも、特に無核性は必須の形質です。
初期の交雑育種においては、30年もかかるような長い育種年限、多胚性や不稔因子のためウンシュウミカンとの雑種獲得が難しいこと、他に優良な無核性育種素材が無いことにより、その育種目標の実現は絶望的とも思えるものでした。
私たち、農研機構のカンキツ品種育成・生産グループでは、主幹を伸ばしてから誘引することにより、幼若期間を短縮できることを明らかにし、多数の個体を扱えるようにしました。また、初期の育種でウンシュウミカンの後代から選抜した「清見」や「スイ-トスプリング」のような単胚性で、やくの発育に異常があり、種無し果実が結実する母本を用いて大規模に交雑育種を展開しました。
その結果、1970年以降に交配した「清見」およびその後代を育種親とした個体群より、2025年3月現在までに、成熟期が異なり品質の良い20品種を育成することができました。それらの総普及面積は約3,500haになっており、その中でも「不知火」「はるみ」「せとか」「はれひめ」は、広く栽培されるようになっています。
また、やく退化の遺伝様式、「清見」が自家不和合性因子をヘテロに持つこと、雌性不稔性や強い単為結果性が後代に遺伝することを明らかにし、多様な育種素材を育成しました。
受賞成果は、農林水産省果樹試験場(現農研機構)の組織的なカンキツ育種として取り組んできたもので、受賞者以外にも、多くの方のご協力を得て実現したものです。また、健全種苗の普及に協力いただいた日本果樹種苗協会他、産地化に尽力いただいた関係者各位に心より感謝いたします。