Hort. J. 91(4): 437–447.
Artificial Control of the Prunus Self-incompatibility System Using Antisense Oligonucleotides Against Pollen Genes Kentaro Ono*, Kaho Matsui, Ryutaro Tao Graduate School of Agriculture, Kyoto University, Kyoto 606-8502, Japan *Present address: Faculty of Agriculture, Kagawa University, Miki, Kagawa 761-0795, Japan |
<研究内容>
バラ科サクラ属果樹の一部は,S-RNase(S-ribonuclease)依存性の配偶体型自家不和合性を示す.自家不和合性は果実生産,交雑育種,遺伝解析の障壁となるため,人為的な制御手法の開発が求められてきた.他の植物種では人為的に自家不和合性を打破した研究例が複数報告されているが,サクラ属の報告は無い.本研究では,サクラ属でこれまでに見つかった自家和合化変異体は,花粉側因子のS haplotype–specific F-box (SFB)またはM-locus encoded glutathione S-transferase-like (MGST)が変異している点に着目し,サクラ属の自家不和合性の打破を試みた.アンチセンスオリゴを花粉に処理してSFBまたはMGSTの発現を抑制した後に自家受粉することで,自家不和合性のスモモ‘Sordum’において自家結実と自殖後代を得ることに3年間連続で成功した.さらに,通常はサクラ属の自家受粉された花粉は雌ずい内部で花粉管伸長を途中で停止するが,SFBの発現抑制により雌ずい内の自己花粉の花粉管伸長が増加する傾向を,スモモ,ウメ,オウトウにおいて観察した.以上により,SFBおよびMGST がサクラ属の自家不和合性反応に必須の因子である可能性が確認された.本研究は自家不和合性サクラ属品種を用いて,人為的に自家不和合性を打破して自殖後代を得た初の報告であり,将来的に果実生産,交雑育種,遺伝解析時に利用可能な,より簡便な人為制御法の開発の手がかりとなるものである.
<授賞理由>
果樹類では遺伝子組換え体の作出が難しく,組換え体が出来たとしても生育に時間がかかるため逆遺伝子学的手法による研究が困難な場合が多い. 本研究ではサクラ属果樹を用いて,花粉に直接アンチセンスオリゴヌクレオチドを処理することで花粉管内のSFBおよびMGST遺伝子の発現を抑制し,自家不和合性のスモモにおいて自殖後代を得ることに成功している. 本研究によって,これらの遺伝子がサクラ属における自家不和合性の発現に必須の因子であることが直接的に示されており,今後,サクラ属果樹の安定生産,省力化技術の開発,遺伝解析などの進展に大きく貢献する論文として高く評価された.