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Hort. J. 93(4): 397-405. Regulation of Cell Wall Remodeling is an Important Factor in the Reduction of Tomato Fruit Size Immediately after Fruit Set Induced by Salinity Conditions Kiei Soyama1, Ayaka Yano1, Akari Miyakoshi2, Manatsu Itano2, Haruka Sugiyama2 and Hiroaki Iwai2 1Graduate School of Science and Technology, University of Tsukuba, Tsukuba 305-8572, Japan 2Institute of Life and Environmental Science, University of Tsukuba, Tsukuba 305-8572, Japan |
<研究内容>
非生物ストレスの1つである塩ストレスは,植物の生育 や代謝に支障をきたす.塩ストレス条件下で栽培したトマト果実では,果実サイズの減少,果実硬度の増加といった農業作物としての弊害となる特徴も観察される.この果実 サイズの低下や硬度の増加には,植物の細胞拡大や硬度に大きな影響を与える細胞壁構造が,大きく関与すると考えられる.被子植物では,受粉によって子房が果実となり,果実は結実・成熟を経て発達する.果実の大きさは,緑色の果実が最大サイズに達した後も変化しないため,果実の発達の初期段階を解析することが重要である.そこで本研究では,トマトの果実サイズを決定する初期果実形成過程 における細胞壁の制御と性質に注目した.力学的強度測定解析の結果,トマトの初期果実では,塩ストレス条件下での果実硬度の上昇がみられ,初期果実形成過程においても既に差が生じていた.さらに,細胞壁多糖の分布変化を観察することにより,組織拡大期である 5 DPAを含む果実 形成初期には,セルロースの蓄積により果皮が硬くなることがわかった.そして,細胞壁の軟化に寄与するペクチンや,細胞壁をゆるめる酵素であるXTH やエクスパンシン は増加しなかった.この結果から,塩ストレス条件下での果実硬度の上昇は,初期果実形成過程におけるトマトの初期果実で起こり,塩ストレスによる果実サイズの縮小は, 初期果実形成過程における細胞壁特性の変化に起因することが明らかとなった.
<授賞理由>
本論文は,塩ストレス下におかれたトマトの果実硬度の制御メカニズムに関する新たな知見を提供している.高品質なトマト果実生産を目的とした塩ストレス条件下でのトマト栽培において,果実サイズの減少と果実硬度の上昇が収量減少につながることが問題となっている.著者らは,塩ストレスによる果実サイズの減少や硬度の増加が果実形成初期段階で生じ,それらの原因が細胞壁の特性変化によることを明らかにした.本研究成果は,高糖度トマトの高収量生産技術開発につながる学術的に優れた論文である.
<研究概要>
